中華DACで遊んでみました

1年以上ブログはいじっていませんでしたが久々にオーディオで遊んでみましたので書かせていただきます。

お題はありがちなDACなのですがお金をかければ高価なものを買えば良いとは限らないということでは面白いとは思います。

先日200万円もする一体型(AK4997)やセットで300万もするセパレート型(AK4490)を比較試聴する機会がありました。確かにどちらも質感的には一流(後者の方が良かったので値段には比例していました)でしたがそこまで出費しなくても...とお考えになるのは私だけではないと思います。ですのでこれらに対抗すべくAKを積んだ激安の中華DAC(AK4495)を買ってきて遊んでみることにしました。

適当に注文してみましたが届くまで3週近くかかったしXMOSのドライバーは満足に提供されないしいい加減なのはさすが中華ということろです。これまたデフォルトの質感たるやなんだこりゃのレベルです。あ〜やっぱりだめかと思ったのですがゴミにしてしまってもったいないし良くする方法(大改造は時間を喰うから駄目)はないかということでまずはOP-AMPの交換とあいなりました。交換できるのは終段のOP-AMPだけですがおそらく差動シングル変換でしょうからユニティゲインで安定なら使えるでしょう。

結果としては...たぶんUSBで動かすDAC100よりはいいかなというレベルになった(OP-AMP交換だけで)と思います。使い方によっては充分楽しめる感じでした。

フィルター設定はSuper Slow(ただしこの設定にすると折り返しノイズが大量に出るようになります)ではパルシブな音のつぶれ感が軽減され(うるさいといえばうるさいですけれど)低音はどっしりとしていて量感もあります。どちらかと言えばドンシャリ系ではありますが全体として鮮度が高くわりとナチュラル感も高いです。欠点としては透明感がいまいちなところと音数があまり多くないところでしょうか。電源が安っぽいので高級なセパレート機には及ばないのは致し方ないところでしょう。もちろんクロックは外部から注入することはできませんがAK4495はこんな適当に作られたものでもそこそこのパフォーマンスを発揮してしまうという点では驚きです。CS4398よりはたぶんいいでしょうね。

適当に試していたつもりでしたがこのDACは電源の質に敏感で普通の電灯線で聴くとOP-AMPがLME49990であってもダメダメな音になってしまいます。低音の量感がなくなり高音が汚くなりとても同じDACとは思えないです。ほぼmy柱上に近い3φ(この辺では誰も使っていないです)を使うと生き生きとした感じに戻ります。再生の送り出しもポータブルプレイヤー以外ではよろしくないようです。
暇があったらAK4495のシンプルなDACの基板でも作ってみたいです。OP-AMPはTH4631あたりがいいでしょうねきっと。LH0032だと大きくなり過ぎて現実的ではなさそうですし。


見るからにダサイ基板(パターンの引き回しも結構イモですよね)
USBはいまのところMACでしか動かせないのでCOAXになりますがメモリープレイヤーでCOAXで送れるものがあったのでそれで聞けています。Li電池を内臓して外部電源を必要としないメモリープレイヤーの質感はなかなか良いです。USBで送ればDSDネイティブ再生はできるかもしれませんがどうしてもPCを使わなくてはならないですし(ノートPCならLi電池ですが)AUDIO GATE以外では設定なども結構めんどいです(AUDIO GATEはDAC10とか100でないとDSDネイティブはできない)。結局は単純な動作をしている専用のハードは質感もユーティリティが良いということのようです(DSDはマルチビットに変換して出してくれます)。

話をもどしますがデフォルトで取り付けられているのはNJM5534DDでした。このOP-AMPの音はどうもいただけないです...伸びきらないし埃っぽいし申し訳ないですが何の面白みもない感じがします。速攻で交換したくなるOP-AMPです。ちなみに少ないながら試した中でなかなか良いと感じたのはLME49990でした。世評の通り素晴らしいOP-AMPではないでしょうか(上記の感想はLM49990のものです)。ただまあずっと聴いていると飽きるという感じはありますけれどね。高オープンループゲインのバイポーラーOP-AMPは大抵そうです。
こちらで在庫していたのは以下の通りでAD811を除いてはいずれもSOP8なので変換ソケットを作らないといけませんが秋月で売っている変換ソケットとピンもあったのでなんとか作業はできました。

LME49990(オーディオ用超低ノイズ超低歪)
THS4631(FET入力高速)
OPA627AU(OPA27の初段をFETにしたもの)
AD811ANZ(電流帰還高速 DIP8)


もちろんLH0032CGは沢山ありますが今回は試していません。最大の位相補償が必要で思ったほど特性が出ないためです。残留ノイズが100Ω抵抗の熱雑音と等しいというLT1028もどっかにあったかもしれませんが試していません。

以下テスト順に記載
LME49990
発振などのトラブルもなく問題ありませんでした。192Kサンプルで10KHzおよび20KHzの単音を再生してみてもおかしなひずみや発振は観測されませんでした。もちろんオーディオの帯域外もちゃんと見ています。消費電流は8-9mAですが電源が±15かかっているので発熱が結構ありチップは表面は60℃近い温度になります。SOP-8の熱抵抗は両面基板に取り付けた場合165℃/Wなので(新日本無線の資料, TIの資料では145℃/W)9mA/30Vでは270mWになりジャンクション温度は周囲の温度+45℃くらいになるのは明らかです。ケース表面温度とジャンクション温度の熱抵抗は26℃/Wとなっているので実際にはジャンクション温度より7℃くらい低くなります。周囲温度25℃だとジャンクション温度は70℃なので63℃が表面温度になりだいたい計算通りでしょう(測定は赤外線温度計, 熱抵抗は165℃/Wより若干小さいのかもしれません)。そもそも発熱するのは電圧を30Vもかけているためで発熱したら即発振しているとは言えないとは思われますしオーディオ用の両面基板に取り付けて熱的になんとかギリギリ使えるようなっていると思われます。
なお、最近TIのサイトからデーターシートが削除されたようで、まさに幻のOP-AMPという様相を呈していますが特性はピカイチで他を寄せ付けない性能と言えると思います。1個1000円以上するAD797を超える性能でもちろん自社品をも脅かす性能であって製造が中止されたのではないかと。こんなものを安く売っていたのではやってられないということでしょう。NSの技術者が英知を結集したまさに傑作でディスコンにする理由は採算性以外に見当たりませんが。

LME49990 ±15V 2Vpp 入力50Ω RF/RG/RL 1KΩ 10KHz矩形波 立ち上がり時間72nS 波形も綺麗でオーディオアンプの割に高速です。なかなか良くできていますね。2Vpp換算で27.8V/microS程度とれているので小振幅でのSRが優れているという特徴があるようです(大振幅になるとSRは若干低下するようです 20Vppでの規格値 22V)。

THS4631
30MHzくらいで数百mVpp程度の発振が観測されたため使用せず。金田アンプのようにみかけ上の第一ポールが20KHzくらいにあってオープンループゲインが80dbなどどいう20年くらい前のモノリシックではあり得なかった素晴らしいOP-AMPですね。機会があれまた試してみたいです。オーディオAMPとしては理想的な特性をもっているのでLME49990より質感が高い可能性が高そうです。EVA BOARDは2枚もっているのでとりあえずラインアンプで試すことはできます。


波形はエバボードのデフォルトである2倍の非反転のときのものです。CF=0pFなのでオーバーシュートが出ています。
立ち上がりはめっちゃ速く3nS程度です。もちろんLH0032よりずっと速いです(±5V, input 1Vpp, 負荷は100Ωではなく1KΩ)2Vpp換算で667V/microS。

OPA627AU
LME49990と同様トラブルはなし。消費電流が6-7mAで発熱はLME49990よりは少ない。OPA627AUの熱抵抗は108℃/WでLME49990よりはTIの資料の上でも小さいので意外に発熱は少ないようです。それでメッチャ熱かったら過負荷か発振かどちらかでしょうね。OPA627の値段が高いのは独自のプロセス(DIFET)を使っているためだと思われます。初段のFETだけでチップ面積の大半を喰っているらしいです。

LME49990と同じ条件で測定した波形ですが立ち上がりは300nSとかなり遅いです。FET入力なのにバイポーラに負けているとは。2Vpp換算で6.7V/microS。
でも良く考えてみると遅すぎるのでニセモノだという疑いも?エンボス包装SOPのニセモノなど手が込んでいるものが存在するのか...真贋については追跡調査させていただきます。ただデーターシートを見る限りでは大振幅のときに測定したスルーレートが40-55Vとなっているのでたとえば12Vppで測定して立ち上がりがこのままだったら40Vになるのでありはありかもしれませんし波形の写真は500nS/divとかだったしあながち偽物でもなさそうな気もします。

真贋調査結果 OPA627AP ↓↓

OPA627APで再測定したところ27nSとそこそこ速かったです。SRは55Vを超えています。さすがに10倍の差があればニセモノを疑いたくなりますが...高価な半導体とか医薬品にはニセモノが出回っているようですからね。AUバイアグラほど簡単には作れないしょうけれどレーサーの刻印が実はインクだっだりして?
なおAUの最大SRは40V程度でした。AUはオークションで買ったものですがAPは正規代理店で買ったものです。

AD811ANZ
大振幅で発振し発熱もすごかったため即中止。消費電流が16-17mAもあるので±15V(30V)で連続駆動するなどは無理がありそうです。PDが500mWを超えるためSOP8のパッケージはありません。ADの資料ではDIP8の熱抵抗は90℃/Wらしいので計算上はLME49990と同じくらいの温度になるはずですが実際はどうなんでしょうか?それにしても電流食い過ぎなのでJバージョンなど変なカテゴリ(24Vで使いなさい)もあるようです。

波形はAD811のパルス応答(素人オーディオ作成テストボード)負荷1KΩ(負荷を100Ωにするともう少し立ち上がりが遅くなる)
電流帰還アンプではありますが立ち上がりは10nS程度でTH4631の3倍以上遅いです。DIP IC用に適当に組んだボードですが発振などはありません。
RFとRGは他のアンプでも試せるように1kΩにしています。なので若干立ち上がりが遅く出ているかもしれませんが(THSは500Ω)その他のテスト条件はTHS4631と同じです。若干なまっていますがオーバーやアンダーはなく綺麗です。AD811はRF 1KΩで使うといいのかも。2Vpp換算で200V/microS。


おまけでTHS4631とAD811を比較してみましたが立ち上がりはTHSが圧倒的に速くAD811の出力波形はTHSに比べるばなまっていることがわかります。THSはFETなのでノイズはADの方が少ないでしょうけれどADのバイアス電流は桁違いに多いのでDCオフセットが乗っかる可能正もありそうです。
ちなみにですがAD811用のテストボードにDIP化したTHS4631を乗せてテストするとソケットの容量や配線長の関係で波形は乱れますが立ち上がりはやはり3nSです。ボードのせいでAD811の立ち上がりがめちゃめちゃ遅いということではありません。

テスト条件: 電源電圧±5V, 非反転2倍, 入力50Ω 1MHz矩形波 1Vpp, RF/RG/RL 1KΩ(AD811ボードは1050Ω)入出力端子 SMA, FG 33622A


比較できたのはLME49990とOPA627AUですが素人オーディオ的にはOPA627(AU)はよろしくないという感じでした。
元々OPA627にはあまり良い印象はもっていませんでしたが若干暗く見通しが悪い感じがします。高いお金を出して買う必要もなさそうです。(以上はAUつまりSOP8に関する感想です)
マークレビンソンのプリだってあんまり良くなかったですしね(採用当時としては最高性能のOP-AMPだったのでしょうけれど)。ちなみにこのAUは某有名なネットワークプレイヤーの中級機(80万円くらい)にも使われていますが同様に暗い感じの音でどうも好きになれなかったです(あくまで個人の印象です)。

OPA627AUは確かに立ち上がりも遅く鈍い音でしたが追試したAPは別物という感じでAPはさほど悪くはなかったです。淡々としていてやはり若干暗い音ですがディスクリートに近い抜けのよさや空気感はあるようです。ですが中音域の緻密さや全体的な鮮度感はLME49990が上ではないでしょうか。
しかしパッケージの違うSOP-8(AU)は良くなかったですね。AU実はDIFETじゃなかったりして?実は某100万超えの1世代古いCDPにも627は使われているのですが使っているのはAPつまりDIP8なんですよね。わざわざ面積を喰うDIP8を使っているわけですから何か理由があるのかもしれません。某ネットワークプレイヤーに使われているのは間違いなくAUでだからあんまりなのかと...


ところでネットの記事では電流帰還を含めた高速OP-AMPが良いと書かれていることが多いようですが、素人オーディオとしてもうまく動作させられれば良いというのはわかりますがまずは発振など不安定な動作をしないことが重要であって安易に高速OP-AMPが良いというもいかがなものかと思ってしまいます。適当に組んだテストボードではAD811は発振していませんでしたがDACに組み込むと大発振でやけそうなくらい熱かったですからね。

たとえば経験のある方が自分で基板などを設計する場合は安定に動作させられるかもしれませんが市販の機材をいじくって動作させる(改造)などの場合とくに電流帰還アンプなどは苦労しそうですし消費電流も多いので(LTには少ないものもあるようですが)いくら±15で動作させられるとしてもその代わりめちゃめちゃ発熱すること請け合いです。素人オーディオ的には高速AMPは10V(±5V)で使うものという印象がありますよね。そんなのを30Vかけてオーディオで使うの?みたいに思っちゃいます。もちろんLME49990とて発振するケースもありそうですが電流帰還や高速OP-AMPのようにどうしても発振が止められないということに遭遇することもなさそうに思われます。テストした限りではLME49990はあらゆる面で満足すべき性能を持っていることがわかりましたし72nSで満足できない人はTHSなど使って超高速に挑戦すればいいかもしれないですよね。

高速OP-AMPの利点は裸の特性が良くオープンループゲインが下がってくる高周波側でも歪み特性が極端に劣化して来ないことろにありそうです。あるいはLME49990など低周波側のオープンループゲインがめちゃめちゃ大きいアンプが帯域によって質感が異なるという評価を受けることになるのも理解できます。NFで特性を稼いでいるアンプは大抵そうですし高域のすがすがしさ(透明感)や輪郭の鮮明さに若干欠けるところがありOP-AMP臭い音といえばOP-AMP臭い音になるとは思います。高速OP-AMPではこの点が払拭されるであろうとことも理解できますがユニティゲインでどれだけ安定に動作させられるかに尽きると思います。±5vで良いのであればユニティゲインでも安定な性能の良い電圧帰還アンプは山ほどありますが±15の場合は皆さんご存知の通り良いものはなさそうです。高速アンプ自体30Vで使う用途自体が限られているのでとくに電流帰還は古いプロセスで作られたものでしかあり得ないでしょうね。あるいは電流帰還はバイアス電流がめちゃめちゃ大きいのでそのへんが問題点になりそうではあります。数十MHzなど高い周波数で発振する可能性もあるのでオシロやスペアナを持ってないと厳しいのでは?

そもそもAD811にしても6dbのバッファーで30MHz程度がせいぜいなので現在の電流帰還に比べれば全然たしたことない性能です。たとえばLMH6702だったら100MHzは楽勝だし歪みも少ないです。AD811は±15Vが扱えるのが唯一の利点?ではないでしょうか(オーディオ用としては重要なスペック)。軍事用の883Bものがあるためか特殊用途での需要があるためか製造は続けられているようですが?それこそ中止になっていてもおかしくない品種とは思います。あるいはTHS4631に比べて超高速とも言えないです(スルーレートを大振幅で測定すれば電流帰還の方が良いかもしれませんが)2Vppで比較すると圧倒的にTHSの方が速いです。なのでTHSより電圧性ノイズで若干有利なだけでさしたるメリットもさなそうです。

素人オーディオ的にはLME49990がまずはお勧めでそれ以上の高速性を求めるならTHS4631でしょうかね。基板を設計するならSOP8を使いたいでしょうしSOP8で熱的に耐えられるのはLME49990とTHS4631でなはいでしょうか(周囲温度が高くなる場合は小型のヒートシンクなどが必要になるかもしれませんが)。

http://www.tij.co.jp/product/jp/LME49990/quality すでにリンク切れ(流通在庫がなくなったからでしょうか)

さすがの若松さん(いつもお世話になっております)
http://www.wakamatsu-net.com/cgibin/biz/pageshousai.cgi?code=13061035&CATE=130